昨年、ネーミングセンスが賛否の渦を巻き起こした「JR高輪ゲートウェイ駅」。安易な地名変更で土地の歴史的重層性が失われる危険性について、今尾恵介著『地名崩壊』を参考に考えてみました。
地名は階層、縮尺!
まずはじめに、地名は階層、縮尺で考えれば理解しやすいです。関西を例に、阪急や阪神、地下鉄は梅田駅ですが、JRは大阪駅です。地下鉄は地域密着で、全て大阪より下の階層で駅名をつけています。なんば、心斎橋、本町、淀屋橋と来て、いきなり大阪では違和感が残るのです。一方、JRは上の階層で駅名をつけており、大阪駅は文字通り大阪の玄関口という思いが込められています。新幹線になるとさらに上の階層になり、あれほど横浜の中心地から離れている駅でも新横浜駅になるのです。縮尺が合わない場合は「新〇〇」で逃げるのが常套手段(対義語的な言葉として本、本町、中、中央、都市などがあります)。これでディズニーランドが千葉県にあるにも関わらず東京を冠する理由がわかります。訪日客に千葉といっても通じませんからね。
「銀座」という地名は明治時代の実に11.8倍に膨れ上がっているといいます。このように「ブランド地名」は拡大、「忌避される地名」は縮小・消滅の一途をたどっています。
星野リゾートの星野佳路社長は2017年に福島の県名を変更するよう主張しました。日本で3番目に広い都道府県である福島県全域が福島原発事故の風評被害を受けているからです。私は「県名を変えるなんてありえない」と思いましたが、宮城県や栃木県の一部より原発から遠い会津などが風評被害で苦しんでいるのも事実です。そもそも、「福島原発というネーミングの縮尺を間違えていたのでは」というのが著者の意見です。関東の人の「新宿にいく」が福島の人にとっては「東京へいく」、海外の人は「日本へいく」という感覚に変わります。東京電力の目線だと福島県大熊町の原発は「福島原発」になるのです。
ひらがなカタカナ化
高輪ゲートウェイのように、地名のひらがなカタカナ化が止まりません。ひらがなの持つ柔らかさやカタカナの持つ新しさが求められているのです。誰もが理解できるワードは避け、わかったようなわからないような漠然とした、でもみんなが憧れる雰囲気を持つ新造の固有名詞が次々と生まれています。「ニュータウン」はその最たる例です。
【参考文献】
今尾恵介『地名崩壊』角川新書、2019
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