JR東日本が運行する常磐線は太平洋に沿って関東と東北をつなぐ大動脈です。2011年に発生した東日本大震災及び福島第一原子力発電所事故での被災後は全線が運休。完全復旧を果たした2020年3月14日の前日、私は福島県に赴きました。
津波と常磐線
新地駅(福島県新地町)は太平洋からたった500㍍の距離に位置します。2011年の東日本大震災では駅に停車していた4両編成の列車が津波でくの字に折れ曲がり、駅舎もろとも流されてしまいました。40人の乗客は、奇跡的に乗り合わせた警官が避難誘導。安全確認をするために残った3人の乗組員は、退避した跨(こ)線橋の天井まで到達した津波に襲われましたが、かろうじて流されず、1人の犠牲者も出ませんでした。新地駅は2016年に営業を再開しています。
太平洋を望む四方山(宮城県山元町)。大海原が目の前に迫る山元町のまちなみや常磐線を走る電車を見ることができる絶景スポットです。展望台には津波による浸水範囲を示した展示がありました。常磐線が広い範囲で浸水被害に遭ったことがわかります。穏やかな景色が波に襲われる光景を想像すると恐怖を感じました。
常磐線のルートからほど近い仙台空港(宮城県名取市)にも津波が襲来。波の高さは3㍍に達し、1階が水没しました。この事実を知るだけでも、水に溺れるような気分になり心が締めつけられます。
原発と常磐線
常磐線は震災直後に全線運休となりました。駅舎や線路を修繕し、徐々に運転は再開していきましたが、福島第一原子力発電所事故で大きな被害を受けた浪江町、双葉町、大熊町、富岡町の4町を通る富岡―浪江間だけは最後まで不通のままでした。放射能に汚染されていたからです。
2016年から除染や改修工事が開始。双葉駅(福島県双葉町)、夜ノ森駅(福島県富岡町)がリニューアルされました。
また、運転再開に合わせ、双葉駅、大野(福島県大熊町)、夜ノ森駅周辺が復興再生の拠点として避難指示の解除を受けます。
運転再開前日。まちには青空が広がっていました。しかし、目に入るのはバリケードや朽ち果てた建物ばかり。道の入り口には警備員が立ち、所々に線量計が配置されています。「帰還困難区域」と書かれた看板や、山積みされた土嚢袋の存在も気になりました。
明日から、日常の風景が帰ってくるとはとても思えませんでした。しかし、9年ぶりに関東と東北が1つにつながると思うと、お祝いしたい気持ちにさせられます。
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