旅先でテレビの天気予報を観ていると、見たことも聞いたこともない地名が出てきてビックリすることがあります。日本の全市町村をほぼ制覇してもまだまだ知らないことだらけと痛感させられます。今回は天気予報で見かける「気象予報区」について解説します。
気象庁の公式サイトで気象警報・注意報や天気予報の発表区域を見てみると、天気予報は、各都道府県をいくつかに分けた一次細分区域単位で発表されます。また、警報や注意報は、さらに細かい二次細分区域単位で発表されます。今回は天気予報で使用される一次細分区域単位に注目。
例えば宮城県や神奈川県であれば東部と西部、京都府や兵庫県であれば北部と南部といった具合で「方角」で区分けされています。
静岡県の「伊豆」や石川県の「加賀」「能登」、岐阜県の「飛騨」「美濃」、鹿児島県の「薩摩」「大隅」のように旧国名を使うケースも多いです。
また、秋田県や岩手県の「内陸」「沿岸」、宮崎県の「平野部」「山沿い」といった地理的にわかりやすい表現を使う例もあります。
では、ここから少し変わった区分をご紹介します。
まずは青森県。区分は「津軽」「下北」「三八上北(さんぱちかみきた)」の3つ。さ、さんぱちかみきた!?。
津軽や下北、上北は古くから郡名などで使われています。津軽は全国的に有名ですし、下北、上北も「千葉県には下総と上総、新潟県には上越と下越があるし、そういう地名なんだろう」と理解できます。
しかし、「三八」は聞き馴染みのない言葉。特に、「ぱ」と半濁音が使われているところが新鮮です。三八の三は三戸郡、八は八戸市のこと。三戸郡や八戸市に十和田市などが含まれる上北が加わって「三八上北」という区分ができあがったということです。
お次は山形県。区分は「庄内」「最上」「村山」「置賜(おきたま)」の4つ。庄内平野や庄内空港で知られる庄内や最上川で知られる最上は聞いたことがありますが、置賜は初耳でした。しかも、ちょっと響きが可愛い。
江戸時代から馴染みのある藩名で分けるなら「庄内」「新庄」「山形」「米沢」などになりそうなものです。
そこで、さらに時代を遡って調べてみると、「最上」「村山」「置賜」は古代から使用されていた「郡名」と現在の区分がほぼ一致することがわかりました。
全国第9位の面積を誇る山形県は自然障壁が多く江戸時代には多数の藩が存在し、地域によって気候文化が異なることから、現在も4つの地域に区分されているのです。
福島県の区分は太平洋側から「浜通り」「中通り」「会津」の3つ。
全国第3位の面積を誇る福島県はやはり自然障壁が多く、中通りと浜通りの間に阿武隈高地、中通りと会津の間に奥羽山脈があります。
浜通りは太平洋側の気候で、冬でも雪が少なく比較的温暖です。
一方の会津は福島県内にも関わらず日本海側の気候で、冬は豪雪地帯となります。
最後に、福井県の区分は「嶺北」「嶺南」に分かれます。
福井県・嶺北出身の知人に聞いても「由来はわからない」とのことでした。
調べてみると、畿内から越後国を結ぶ北陸道の難所である「木ノ芽峠(木嶺)」より北側を「木嶺以北(もくれいいほく)」と呼び始めた事に由来するそう。
嶺北は越前、嶺南は若狭と別々の国でしたが、廃藩置県で福井県に統一されました。
しかし、時代が変わっても自然障壁がなくなることはなく、現在も独自の文化や慣習が受け継がれています。
前出の知人に聞くと「高校でいきなり嶺南の人が関西弁を喋っていたのでビックリした」と話していました。買い物でも嶺北の人が福井市や金沢市に行くことが多い一方、嶺南の人は京都に行くことが多いので日常の関わりは少ないそうです。
さらに、インフラ整備でも違いがあり、嶺北は北陸電力、嶺南は関西電力が供給。2つの電力会社が電力を供給している都道府県は福井県と静岡県のみです。
これらのように、地方区分は天気予報に利用されるだけではなく、日本の文化の多様性を表しているとも言えるでしょう。
【参考文献】
気象庁公式サイト
青森県公式サイト
山形県公式サイト
福井新聞オンライン「嶺南はかつて滋賀県入り運動も…福井県内2つの異なる文化」、2023、〈https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/amp/1713911〉、(2023年4月閲覧)
日本気象協会「福島県は魅力たっぷり 会津・中通り・浜通りの3つの地方の気候の違い」、2022、〈https://tenki.jp/lite/suppl/satoko_o/2022/01/08/30849.html〉、(2023年4月閲覧)
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