広島県広島市の広島駅と、岡山県新見市の備中神代駅を結ぶ芸備線は利用客が少なく、「日本一のローカル線」と言われています。全長は159.1㌔。東に行けば行くほど1日あたりの平均通過人員が減り、とんでもない数字になっていきます。特に、東城―備後落合間は平均通過人員が8~9人あたりと一桁台で推移しています。これはJR北海道などを含めてもJRで最低の利用客数です。今、芸備線に乗ると、あなたがその一桁になるわけです。今回は芸備線を全線制覇してきました。
広島駅10:05発
中国地方最大の都市を出発。日本一のローカル線とはいえ、広島都市圏である広島―狩留家間は平均通過人員が1万人近くに上ります。閑散区間の1000倍以上ですね。また、災害時に山陽本線の代替線になることからまだ廃線には至っていません。瀬戸内側を走る山陽本線と別れて、一気に中国山地の山奥へ入っていきます。
10:27着下深川駅10:40発
ここで電車を降ろされ、生まれて初めて代行バスに乗車しました。芸備線は険しい山間部を走行しているため、土砂崩れなどで度々不通になります。今回は、2018年7月の西日本豪雨の影響で、全面復旧は2019年10月を予定しています。代行バスの行き先名は「快速三次行き」。実際に電車が停車する4駅にしか停車せず、間の駅は通過します。路線バスのような押しボタンはなく、必ず駅前に停車します。運賃も電車と全く同じで、生活に支障がないように忠実に再現されているといってもいいでしょう。大きく違うのは時刻表で、おそらく代行バスの方がかなり遅く、その上、電車と代行バスは連絡していないので乗り換えにもかなりの時間がかかる可能性があることが弱点です。とはいえ、代行があるだけでもありがたい話です。代行バスは大型で乗り心地が良く、2人掛けなのでプライベート空間も保たれます。ゆったりとできるので、時間に余裕があるならば、これはこれでありです。
12:12着三次駅13:01発
予定より早く11:48に到着。そのおかげで、まちの散策と昼食を楽しむことができました。人口5万人を超える中規模のまちで、鉄道が使えないのはかなり不便だろうなと感じました。三次駅からは再び電車に乗ります。
13:34着備後庄原13:37発
庄原市の中心駅となる備後庄原駅で再び電車を降ろされ、バスに乗り換えます。先ほどのバスよりこじんまりしていてアットホームな雰囲気。段々とお客さんが減っていき、運転手の方が私に話しかけてくださりました。運転歴37年。関西を拠点に、二大都市の東京と大阪をJRの高速バスでつなぐ仕事をされてきました。定年退職を迎えて余生をゆっくり過ごそうと思っていたところで西日本豪雨が発生。代行バスを運行せざるを得なくなり、JRから「人が足りない」と連絡がありました。庄原市が故郷だった運転手さんは「地元を助けたい」という思いで現在の仕事を辞めて駆けつけたそうです。月収が40万円を超えることもある世界から日払い1万円の世界へ。契約は2019年3月までの予定でしたが、線路の復旧に時間がかかり、延長になったそうです。「契約違反だ」と話すその顔は笑っており、やりがいに満ちているように感じました。
14:21着備後落合14:37発
予定より早く14:15に到着。運転手さんと別れを告げたところで、再び熱い心を持った方に出会いました。バスを降りるなり、「さあ、こっちにおいで」と駅のホームに迎え入れられました。少し戸惑いましたが、男性の正体は元国鉄機関士の永橋さん。メディアに何度も取り上げられている有名人です。「鉄道マンの使命」として備後落合の歴史を伝えています。途中からは新見方面からやってきた乗客と、鉄道マニアらしき方々も招き入れて講演がスタート。落合は元々あった地名ではなく、JRの路線が落ち合うことから名付けられたとか。備後落合は元々、岡山、広島、鳥取をつなぐ交通の要衝でした。全国にある落合地名はこのような理由からつけられているんですね。そのほか、「駅員100人以上の駅が無人駅になってしまった」、「ホームに立ち食いそば屋があった」、「豪雪で動かなくなった電車を乗客と一緒に押した」などたくさんのエピソードを披露してくれました。しかし、最近では駅を訪れる人のほとんどが鉄道マニアになっており、「あぁもう廃線だな…」とボソッと漏らしていたのがもの悲しい。永橋さんの努力が実り、備後落合が昔の賑わいを取り戻すことを祈ります。
16:00着新見
6時間かけてやっと目的地に到着しました。本来なら広島から新幹線を利用すれば良いところをあえて在来線に切り替えた今回の旅。芸備線を支える2人の熱い男に出会えたことが1番の収穫です。
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