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執筆者の写真うらのりょうた

知られざる南和の世界

更新日:2021年12月7日

近畿地方の南部、紀伊山地の奥深くに位置する南和(奈良県南部)。日本列島が形成されはじめたときから存在する地域ですが、あまりの険しさから人が住みつかなかったため、観光地化やインフラ整備が進んでいません。一方で、山岳信仰の対象となり、世界遺産に登録されるなど、世界中が注目する南和の魅力を探しにいきました。


地理

標高1000~2000㍍級の山々が連なる紀伊山地は日本列島が形成されはじめたときから既に存在した歴史ある地形で、ロマンに溢れています。

険しい地形です

三重県と接し大台ケ原がある「台高山脈」、和歌山県と接し古道「大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)」が世界遺産に登録されている「大峰山脈(おおみねさんみゃく)」は「近畿の屋根」と呼ばれています。近畿地方最高峰の八経ヶ岳(はっきょうがたけ)もそびえ立ちます。


人が住みつかないほど険しいエリアで、すぐそばには日本の首都が置かれたにも関わらず、いにしえの風景が残っています。


人口

南和は平坦な土地が少なく、ほとんどが森林です。例えば、野迫川村の可住地面積はたったの2.1%と日本一低い数値で、離島を除けば人口が日本一少なく、2021年10月時点で340人。村人が住めるところは限られており、川沿いのわずかな平地や山麗斜面に民家が点在するのみです。

野迫川村の景色

黒滝村、野迫川村、下北山村、上北山村…。人口1000人を切る市町村がこれほど密集しているエリアは極めて珍しいです。

南和の7つの村を足しても人口は1万人を下回ります。奈良県の総人口は100万人を超えているので1%にも満たない数字です。


住める場所が少ないのだから当然とも言えますが、全市町村制覇を通じて「日本人はどんな場所にでも住んでいるな」と感じさせられていたので、この事実には驚かされます。

黒滝村の吊り橋

観光

平坦な土地が少ないため農業よりも林業が盛ん。豊かな自然を生かして観光業にも力を入れています。


紀伊山地は山岳信仰の対象となり、霊場と参詣道は世界遺産に登録されています。

登録されている参詣道の一つ、大峯奥駈道の途中にある行者還岳(ぎょうじゃがえりだけ)。読んで字の如く、行き交う者が還るほど険しい山です。登山者の入り口となる行者還トンネル西口までは公共交通機関がなく、大阪からクルマで約3時間かかります。

行者還トンネル

このように、気軽に観光しにくい場所が多いですが、獣のニオイが漂ってきそうな「きなり」の大自然は見る者を圧倒します。「きなり」は下北山村(しもきたやまむら)のキャッチコピーで、「混じりけのない、純粋な」という日本独自の価値意識です。人間のちっぽけさを感じ、世界観が変わるかもしれません。

「きなりの里」、下北山村

十津川村(とつかわむら)の「十津川郷士」など独自の文化も見どころです。


交通

奈良県、隣接する三重県、和歌山県のいずれの主要都市からも遠く、近隣に鉄道や高速道路も通っていないため、アクセスは困難。


例えば、上北山村(かみきたやまむら)は最寄り駅までは1時間半、バスは1日1本。観光パンフレットの表紙に書かれたキャッチコピーは「おくのおく 奈良県の奥の奥にある村」です。

神秘的な景色が広がる上北山村

このような理由から、南和へのアクセスはクルマが基本。しかしながら、頼みの綱である道路も落石など整備状況が悪く、狭隘ですれ違いができない場所も多く存在し、運転にはかなりの神経を使います。国道は「酷道」と揶揄されることも。街灯もなく、日没前に村を出なければ大変なことになります。出発は朝イチで。

近畿地方で訪れるのに1番苦労したエリアであり、「近畿一の秘境」といっても過言ではありません。過酷だからこそ、南和に訪れたときの達成感は格別です。

天川村のみたらい渓谷

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